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お尻の筋肉は、身体の“屋台骨”? ──殿筋群と梨状筋のはたらきから考える、支える力と緩む力

  • 執筆者の写真: タナカユウジ
    タナカユウジ
  • 5月12日
  • 読了時間: 4分


立って、歩いて、座っているだけでも

「なんとなく腰が重い」「片足に体重をかけるクセがある」「座っていてお尻が痛くなる」 ──そんな日常の違和感の裏に、“お尻の筋肉”が関係しているケースがあります。

今回は、殿筋群(大殿筋・中殿筋・小殿筋)と梨状筋に注目します。

いずれも股関節周囲の筋肉で、身体の中でもとくに姿勢や動作の基盤を支えている存在です。

日常生活のちょっとした動きや姿勢のくせが、これらの筋肉の働き方に影響を与え、逆に筋肉のバランスが崩れることで、痛みや不調の“きっかけ”になることもあるのです。


大殿筋──最も大きな筋肉は“推進力”を生む


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大殿筋は、体積がとても大きく、下半身を支える重要な筋肉のひとつです 。

仙骨から腸骨、仙結節靱帯を起始とし、大腿骨の殿筋粗面および腸脛靱帯に停止します。

この筋肉の主な機能は股関節の伸展、外旋、そして外転補助です。

つまり、歩行や立ち上がり、階段昇降、ジャンプなどの動作において、身体を前に推し進める“駆動力”となる部分です。

しかし、現代人の生活様式では、大殿筋が十分に使われない状況が多くなっています。

長時間の座位や運動不足、骨盤の前傾などにより、大殿筋は機能不全を起こしやすく、いわゆる“サボり筋”となってしまうことがあります。

このような状態では、代償として腰椎やハムストリングス、あるいは下腿の筋群が過剰に働き、結果的に腰痛や膝の不安定性につながることもあるのです。


中殿筋・小殿筋──側方から骨盤を支える“安定性”の要


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中殿筋は腸骨外面から起始し、大腿骨の大転子に停止します。

小殿筋はその深層にあり、より繊細に股関節の安定に関与します。

中殿筋の主な役割は股関節の外転と骨盤の側方安定。

歩行中の片脚立脚期において、骨盤が傾かずに安定した姿勢を保てるかどうかは、この筋肉の働きに大きく依存します。

中殿筋が機能不全を起こすと、いわゆるトレンデレンブルグ徴候──歩行時に骨盤が左右に揺れる状態──が現れることがあり、これは腰痛や膝関節へのストレスを引き起こすリスクを高めます。

また、近年のスポーツ医学では、中殿筋と小殿筋の協調的な活性化が、骨盤帯全体の安定性を高めるだけでなく、股関節・膝関節・足関節への負担を軽減し、運動パフォーマンスの向上やケガの予防に寄与するとされています。


梨状筋──坐骨神経と交差する“深層の守り人”


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梨状筋は仙骨前面から起始し、大腿骨の大転子上端に停止する、股関節の外旋筋です。

深層外旋六筋のひとつであり、股関節の外旋だけでなく、屈曲位においては外転作用にも関与します。

注目すべきは、その解剖学的位置関係。

坐骨神経が梨状筋の下を通るケースが一般的ですが、解剖学的には複数のバリエーションが存在し、神経が筋肉を貫く形になっている場合もあります。

この構造ゆえ、梨状筋が過緊張状態になると、坐骨神経を圧迫しやすくなり、「梨状筋症候群」と呼ばれる状態に陥ることがあります。

これは、腰椎由来ではない坐骨神経痛の原因のひとつとして、臨床的にも注目されています。

近年の研究では、超音波やMRIによる診断、筋エネルギー法(MET)やストレッチ、またはトリガーポイント療法が有効であるという報告があり、徒手による適切な介入が望まれます。


まず“動かす”より、“感じてみる”

「鍛える」ことはもちろん大切ですが、それ以上に大事なのが“感覚の再獲得”です。

身体がうまく動かせないとき、それは筋力不足ではなく、脳と筋肉の“つながり”が希薄になっていることもあります。

たとえば:


  • 仰向けで膝を立て、骨盤をゆっくり持ち上げてみる(ヒップリフト)

  • サイドレッグレイズ(横向きで脚を持ち上げる)

  • 椅子に座って脚を組み、体を前に倒して梨状筋をストレッチ


    ※詳しいやり方は動画を参照して下さい。


どの動きも「ここが働いてる」「伸びている」と感じられるかどうかがポイントです。

形を真似することではなく、自分の身体の反応を観察すること。

それこそが、ケアの入口になるのです。


後方からの支えが、骨盤のつながりを整える

お尻まわりの筋肉がきちんと働いていると、骨盤は前後・左右・回旋方向すべてにおいて、安定と可動のバランスを保ちやすくなります。

特に、中殿筋・小殿筋・梨状筋のバランスが取れていることは、仙腸関節──骨盤の後面にある、仙骨と腸骨をつなぐ関節──の動きにも大きく影響します。

この関節は、動きの幅は小さいながらも、歩行や体幹の回旋、立ち上がりなどにおいて非常に重要な“ハブ”となる場所。

次回は、この仙腸関節について、さらに詳しく掘り下げてみたいと思います。


おわりに

私たちはつい、前側(胸や腹部)ばかりに意識を向けがちですが、 身体の後方──特にお尻まわりには、姿勢を支え、動作を導くための重要な“核”があります。

お尻を感じること。そこから始めてみるだけでも、身体の軸が静かに整っていく。 そんな感覚を、多くの方に体験していただければと思います。



※本記事は厚生労働省のガイドラインに基づき、特定の症状の治療や効果を保証する内容ではありません。身体に関する知識の共有を目的としています。



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