top of page

『モモ』は何を伝えたいのか|時間を奪うのは誰か、現代人が読み返したい一冊

  • 執筆者の写真: タナカユウジ
    タナカユウジ
  • 1月9日
  • 読了時間: 4分

更新日:4月23日


今回は、ミヒャエル・エンデ著『モモ』について書いてみたいと思います。


『モモ』は1973年に発表された作品です。

日本でも長く読み継がれてきた児童文学の名作として知られています。


ただ、大人になってから読み返すと、子どもの頃とはまったく違う印象を受ける本でもあります。


物語の中心にあるテーマは、「時間」です。


しかし、それは単なる予定管理や効率化の話ではありません。

人がどのように時間を感じ、どのように生きているのか。

その感覚そのものが、静かに描かれている作品です。


ここから先は、物語の内容にも触れます。

未読の方は、その点だけご承知ください。



『モモ』とはどんな物語か


物語は、廃墟となった円形劇場に住む少女モモと、町の人々との交流から始まります。


道路掃除夫のベッポ。

話し上手なジジ。

職人や子どもたち。


さまざまな人がモモのもとを訪れます。


モモには特別な力があります。

それは、相手の話をじっくり聞くことです。


彼女の前では、人々は自分の言葉を取り戻します。

忘れていた気持ちや、本当に考えていたことに気づいていきます。


モモは助言をするわけでもありません。

正解を示すわけでもありません。


ただ、相手と同じ時間を過ごします。

その姿が、この物語の土台になっています。



灰色の男たちは何を奪ったのか


そんな街に現れるのが、「時間貯蓄銀行」を名乗る灰色の男たちです。


彼らはいわゆる時間泥棒として描かれます。

ただし、暴力的に時間を奪うわけではありません。


「あなたは無駄な時間を使いすぎている」

「その時間を貯金すれば、将来もっと豊かになれる」


そう語り、人々を納得させていきます。


遊びや会話、立ち止まる時間は削られていきます。

効率よく、真面目に、無駄なく生きることが求められていきます。

その結果、街からは少しずつ余裕が消えていきます。


忙しくなったはずなのに満たされない。

人と話す時間が減っていく。

やるべきことだけが残っていく。


灰色の男たちが奪ったのは、時計の時間ではなく、時間の感じ方だったのかもしれません。



現代にもいる灰色の男たち


この構図は、現代の私たちの暮らしにも重なって見えます。


スマートフォンから流れ込む情報。

何度も届く通知。

終わりなく続く比較。


役に立つ情報を見ているつもりでも、気づけば時間だけが過ぎていることがあります。


関連記事

注意が外に向きやすい状態については、

で詳しく解説しています。

是非ご覧になって下さい。


ただ、ここで大切なのは、スマートフォンだけが問題なのではないという視点です。


『モモ』が書かれた1970年代にも、人は忙しさに追われていました。

それ以前の時代にも、余裕を失い、人との関わりを後回しにしてきたはずです。


形は違っても、どの時代にも灰色の男たちはいたのだと思います。



モモが選んだ非効率なやり方


灰色の男たちに対して、モモは効率的な対策をしません。


誰かを論破するわけでもありません。

正しい時間術を教えるわけでもありません。


モモがしたことは、とても静かな行動です。


立ち止まること。

話を聞くこと。

その場にとどまること。


急がず、遮らず、評価せず、結論も急がない。


ただ相手と同じ時間を過ごします。


その中で人々は、自分が何を大切にしていたのかを思い出していきます。



時間を取り戻すとは何か


時間を取り戻すとは、新しい時間を増やすことではないのかもしれません。


誰かとゆっくり話すこと。

同じ場所で、同じ時間を過ごすこと。

何も生産していないように見える時間の中で、自分の感覚を取り戻していくこと。


『モモ』は、その大切さを静かに伝えているように感じます。



この物語は過去の話なのか


『モモ』には、過去の物語のような雰囲気があります。


けれど、今起きていることとしても読めます。

そして、これから先にも繰り返される話として読むこともできます。


だからこそ、この作品は長く読み継がれてきたのだと思います。



まとめ


忙しさの中にいる時、私たちは何かを失っているというより、


ちゃんとやっている。

遅れていない。


そう感じていることが多いのかもしれません。


けれどその一方で、誰かとゆっくり話した記憶や、何も生産していない時間の手触りだけが、少しずつ薄れていくことがあります。


『モモ』は、何をすべきかを教える本ではありません。


ただ、立ち止まること。

誰かの話を聞くこと。

同じ時間を生きること。


それらが失われていく時、私たちの時間もまた、静かにすり替えられていくのだと示しているように思います。


忙しさを感じる今だからこそ、読み返す価値のある一冊ではないでしょうか。


※本記事は作品の感想・考察であり、解釈には個人差があります。


※イラスト素材や写真も公開しています。

記事の理解や資料作りに、ぜひご活用ください。



コメント


bottom of page