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肩がうまく動かないのは“挟まっている”から? ──インピンジメント症候群という考え方

  • 執筆者の写真: タナカユウジ
    タナカユウジ
  • 5月19日
  • 読了時間: 9分





プロ野球選手だけじゃない、“肩が痛い”という経験


先日、MLBで活躍する佐々木朗希投手が「インピンジメント症候群」で戦線を離脱したというニュースが話題になりました。

野球選手にとって、肩のトラブルは常に付きまとう問題です。

しかし、この“インピンジメント”という言葉は、決してスポーツ選手だけのものではありません。

たとえば──


  • シャツに腕を通そうとしたときにズキッと痛む

  • 洗濯物を干そうとすると、途中で引っかかるような感覚がある

  • 子どもを抱き上げたときに肩にイヤな違和感を覚える


こうした経験がある方も多いのではないでしょうか。

もしかすると、それは肩の中で動きのズレや“引っかかり”が起きているサインかもしれません。


私自身も、数年前に肩の腱板を傷めた経験があります。

はっきりとした原因はわかりませんでしたが、あるときから「腕を上げると痛む」「背中に手を回しにくい」といった症状が出るようになりました。

当時は「年齢のせいかな」「使いすぎたのかも」と軽く考えていましたが、リハビリを通してを学んでいくなかで、「もしかすると、あのときは“インピンジメント”の状態だったのかもしれない」と思うようになりました。


いちばん困ったのは、「動かさないと固まる、でも動かすと痛い」というジレンマでした。じっとしていてもラクにはならず、かといって無理に動かすと違和感や痛みが強くなる。

そのうち、身体だけでなく、気持ちのほうまで疲れていくような感覚がありました。


だからこそ今回は、自分の体験もふまえて、「肩の中でなにが起きているのか?」という視点と、「どのように動かせば、肩にやさしく向き合えるか」について、最新の知見やセルフケアのヒントを交えながらお伝えしたいと思います。


“インピンジメント”とは──肩の中で何が起きているのか?


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「インピンジメント(impingement)」とは、日本語では「衝突」や「挟み込み」と訳される言葉です。

肩の関節においては、腕を上げたり動かしたりするたびに、肩の中で“何かが挟まってしまう状態”を指します。


では、いったい何がどこで挟まっているのでしょうか。

肩の関節は、身体の中でも特に自由度が高い反面、構造的にはとてもデリケートです。

腕の骨(上腕骨)の先端と、肩甲骨の一部である肩峰(けんぽう)との間には、腱板(けんばん)という筋肉の腱や、滑液包(かつえきほう)というクッションの役割を持つ組織が存在しています。

腕を持ち上げる動作のとき、上腕骨が上にあがると、この狭い空間で腱板や滑液包が圧迫されることがあります。

これが繰り返されると、やがて炎症が起きたり、摩耗したりして痛みにつながる──それが「インピンジメント症候群」と呼ばれる状態です。


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これを簡単に例えるなら、「開閉するドアのすき間に、カーテンの端っこが毎回ちょっとずつ挟まれている」ような状態です。


・肩を動かすたびに、その「ドア(肩峰と上腕骨)」の間に「カーテン(腱板、特に棘上筋)」がはさまれてしまう。

・すぐには破れないけど、何度も繰り返されることで、だんだん擦れて痛んでくる


というような状態が近い例えです。


この状態は、長時間のデスクワークやスマホ操作、悪い姿勢など、日常生活でも“肩が動きにくくなる条件”はたくさんあります。

実際、私が整形外科で「肩関節腱板損傷」の診断を受けたときには、肩を上げるたびに引っかかるような痛みがありました。

リハビリを通じて「どうしたらよくなるのか」を学ぶ中で、このインピンジメントという概念と出会い、「ああ、肩の中でこういうことが起きていたんだ」と腑に落ちた瞬間がありました。


実はこのとき、私はいったん整体という選択肢から距離を置くことにしました。

「整体師なんだから、まわりの仲間に頼めばいい」と思う方もいるかもしれません。

けれど私は、「症状によっては悪化する可能性も否定できない」と判断し、まず整形外科で診断を受け、リハビリの進め方などを教わる道を選びました。

そのうえで、整骨院の先生の電気治療や保険適用外の手技による施術を併用しながら、回復を図っていきました。

幸運なことに、とても信頼できる先生に出会えたおかげで、当初の強い痛みも早い段階で落ち着いていったと感じています。


その後、「肩を治す」というよりも、“肩が楽に動けるように環境を整える”という視点に切り替わっていきました。

そして実際、肩そのものよりも肩甲骨や胸郭の動きに意識を向けるようになったあたりから、回復が進みはじめたのを覚えています。


なぜ挟まる?──肩だけの問題じゃないかもしれない


インピンジメント症候群は「肩の中で何かが挟まってしまう状態」と説明されることが多いですが、実際には、肩そのものだけが原因とは限りません。

たとえば、普段こんな姿勢になっていないでしょうか?


  • 長時間のデスクワークで、猫背になっている

  • スマホを見るときに首が前に出ている

  • 荷物をいつも片方の肩にかけている

  • 背中が丸まっていて、胸を開く機会が少ない


こうした日常的な姿勢や動作のくせが、肩の動きを制限する原因になっていることがあります。

肩の関節は、非常に自由度が高い反面、周囲の筋肉や骨格に大きく影響されやすい場所です。

特に大切なのが、肩甲骨胸郭(肋骨まわり)の動きです。

肩甲骨は、肩の動きを支える「土台」のような存在です。

この肩甲骨が、肋骨の上をなめらかにスライドしたり、回旋したりすることで、肩関節が正しい軌道を描きながら動くことができます。


逆に言えば、肩甲骨が固まっていたり、胸郭がうまく動いていなかったりすると、肩だけで無理に動こうとしてしまい、その結果、肩の中の組織が挟まれやすくなってしまうのです。

私も、リハビリの中で「肩だけを何とかしようとしても難しい」ということを何度も実感しました。

肩そのものにはほとんど触れず、胸を開く練習や、呼吸を深くするような動きを取り入れたとき、「あれ、なんだか肩が軽くなってきたかも」と感じたことをよく覚えています。

そのときの気づきは、

「肩を治す」よりも、「肩が動きやすくなるように全体を整える」という視点が大事なんだな

というものでした。


このように、インピンジメント症候群の背景には、肩だけではない、身体全体の動きやバランスが関係していることが多いのです。

次は、その「整える」ためのヒントとして、日常でできるやさしいセルフケアについてお話ししていきます。


予防とセルフケア──動かすことでスペースをつくる


肩に痛みや違和感を感じたとき、「なるべく動かさないようにしよう」と考える方も多いかもしれません。

もちろん、急性の炎症や強い痛みがある場合には、無理をせずに安静にすることが大切です。

でも、痛みが和らいできた段階では、少しずつ動かしていくことが“スペースを取り戻す”ための鍵になる場合があります。

ここで言う「スペース」とは、肩の関節内で腱板や滑液包が動くために必要な“余白”のことです。

このスペースが狭くなると、インピンジメントが起きやすくなります。

逆に言えば、身体の動き全体を整えることで、この“通り道”が広がっていくという考え方ができます。

私自身も、リハビリの中で「肩だけを強く動かそうとする」のではなく のではなく、まずは肩甲骨や胸まわり、背中の緊張をほぐしてから、肩を動かすという流れがとても効果的だと感じました。


日常でできる、やさしいセルフケア例


🔹 肩甲骨まわし(壁に手を添えて)

  • 壁に手を当てて、肩甲骨を意識しながら腕をゆっくり回します

  • 肩ではなく、背中が動く感覚を大切に


🔹 胸をひらくストレッチ

  • 両手を背中で組み、胸をひらくようにのびます

  • そのまま深呼吸を3回。胸郭がゆるむのを感じてみてください


🔹 肩のバンザイ深呼吸

  • 両手を前から上にあげ、ゆっくり息を吸います

  • 吐きながら手をおろし、力が抜ける感覚を味わいます


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※※ 痛みがある場合は、無理せず動きの小さな範囲から始めましょう


こうした動きを日常の中に少しずつ取り入れるだけでも、肩まわりの「通り道」が開いてくるような軽さを感じることがあります。


なお、私の場合は肩の他にも胸鎖関節に炎症が出ることがよくありました。

そこも含めて「肩まわり全体の動きのバランス」が崩れていたのだと思います。

あちこちに不調が出ると不安になるものですが、ひとつずつ身体の反応に気づき、やさしく整えていくプロセスはとても大事だと実感しています。


まとめ──“使いすぎ”より“動かし方”に気づくこと


「肩に違和感が出るのは 、使いすぎたから」そう思っていた時期が、私にもありました。もちろん、繰り返しの動作や過剰な負荷がきっかけになることはあります。

けれど実際には、“使い方”そのものに無理がかかっていたり、身体の他の部分がうまく連動していなかったりすることで、肩にばかり負担が集中してしまうというケースも多いのです。


特に肩のような繊細な関節では、「スペース」がなくなることが痛みや違和感の引き金になることがあります。

この「スペース」とは、単に関節のすき間のことだけではなく、動作に余裕があるか、呼吸にゆとりがあるか、身体全体が自然に連動できているか──そうした“動きの質”に深く関わっているものだと、私は感じています。


肩を傷めた経験の中で、私は「肩そのものを守ろうとする身体の仕組み」にたびたび気づかされました。

それは、肩をかばって胸鎖関節に炎症が出たり、首や背中にまで力が入りすぎたりといった、別の場所に表れるサインからでした。

当時は「また別のところまで痛くなってきた…」と落ち込むこともありましたが、今振り返るとそれは、身体ががんばってバランスを取ろうとしていた結果だったのかもしれません。

痛みがあるとき、「動かさない」か「無理に動かす」かの両極端になってしまいがちです。でもその間にある、“ゆっくり、やさしく、動かしてみる”という選択肢を知っておくだけで、身体との付き合い方が少し変わってくる気がします。


大切なのは、「もっとがんばる」ことではなく、“今の自分の身体の動き方”に気づくことが、はじめの一歩なのかもしれません。

私自身は、肩の痛みが強くなってから整形外科を受診し、リハビリを通じてようやく気づけたことがたくさんありました。


もし今、「ちょっと動かしづらいな」「なんとなく肩が重い」と感じている段階であれば、身体の使い方や姿勢のクセに気づくために、整体を“ひとつのサポート手段”として活用するのも良いかもしれません。

痛みが本格的に出る前に、自分の身体と向き合う時間をとっておくこと──それもまた、大切な“予防”のひとつだと私は感じています。

ほ んの少しでも「肩が軽くなったかも」と思えるような日が増えることを、願っています。


みどり整体院では、強い痛みがある方に対して、その痛みそのものを無理にどうこうしようとするのではなく、「その痛みをかばって、がんばっている他の部位」にも目を向けながら、全体のバランスを整えていくことを大切にしています。

なお、強い炎症や激しい痛みがある場合には、整形外科などの医療機関での受診をおすすめしています。判断が難しいときには、どうぞお気軽にご相談ください。



※このブログは一般的な情報提供を目的としており、医療行為・診断を行うものではありません。



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