認知行動療法とは?「事実」と「受け取り方」を分けて考えるヒント

更新日:3 日前
同じ出来事を経験しても、ほとんど気にせず過ごせる人もいれば、そのことが何時間も頭から離れなくなる人もいます。
この違いは、単純に性格の強さや弱さだけで決まるものではありません。
私たちは目の前で起きたことを、そのまま受け取っているように感じています。
しかし実際には、これまでの経験や価値観、そのときの気分などを通して、自分なりに出来事を受け取っています。
そして、その受け取り方によって気持ちが変わり、その後の行動まで変わることがあります。
こうした「自分は出来事をどう受け取っているのか」に目を向ける心理的なアプローチのひとつが、認知行動療法です。
今回は認知行動療法の基本的な考え方をもとに、普段はひとまとめにしてしまいがちな「起きたこと」と「自分が考えたこと」を少し分けて見ていきます。
さらに整体師として身体を見ている立場から、考えごとをしているときに起こる身体の変化についても考えてみたいと思います。
認知行動療法とは
認知行動療法は、英語ではCognitive Behavioral Therapyと呼ばれ、CBTと略されることもある心理療法です。
名前だけを見ると少し難しく感じますが、ここでいう「認知」とは、物事をどのように受け取ったり考えたりするかという意味です。
何か出来事が起きたとき、人はそこからさまざまなことを考えます。
仕事で注意を受けたとき、それを「次から気をつけよう」と受け取ることもあれば、自分は評価されていないのではないかと感じることもあります。
同じ出来事でも、受け取り方が違えば、その後に生まれる感情や行動も変わることがあります。
認知行動療法では、出来事に対する考え方だけでなく、そこから生じる感情や行動との関係も整理しながら、現在抱えている問題への対応を検討していきます。
認知行動療法は、単に「事実と解釈を分ければよい」という方法ではありません。
実際には、その方の状態や目的に応じて、さまざまな方法が用いられます。
この記事では認知行動療法そのものを実践するのではなく、基本的な考え方の中から、日常でも参考にしやすい「起きたことと、自分が考えたことを分けてみる」という視点を取り上げます。
私たちは「出来事」と「解釈」を一緒にしていることがある
たとえば、知人へメッセージを送ったものの、数時間たっても返信が来なかったとします。
実際に確認できるのは、まだ返信が来ていないということです。
ところが人の頭は、その先まで考えます。
何か気に障ることを書いてしまったのかもしれない。相手を怒らせたのではないか。
もしかしたら嫌われているのではないか。
気がつけば、単に返信が来ていないという出来事から、ずいぶん遠いところまで考えが進んでいることがあります。
もちろん、本当に相手が不快に感じている可能性もあります。
一方で、仕事中なのかもしれませんし、スマートフォンを見ていないだけかもしれません。返信を忘れているだけということもあるでしょう。
ここで大切なのは、「嫌われているはずがない」と無理に考え直すことではありません。
まだ返信がないことは確認できる事実です。それに対して「嫌われたのではないか」と考えたのは、自分の受け取り方です。
この二つを分けてみると、それまでひとつの現実だと思っていたものの中に、自分の解釈が含まれていたことが見えてきます。
考える前に、すでに考えている「自動思考」
何かが起きたとき、頭の中へ素早く浮かんでくる考えは「自動思考」と呼ばれます。
じっくり考えた末に出した結論というより、反射的に出てくる考えに近いものです。
仕事で小さなミスをしただけなのに、自分は仕事ができないと感じたり、周囲から呆れられているような気がしたりすることがあります。
冷静になってから考えれば、ひとつのミスだけでそこまで判断する必要はなかったと思えるかもしれません。
ところが、その場では自然にそう感じてしまう。
これが自動思考の分かりやすい例です。
こうした考えが浮かぶこと自体を悪いことと捉える必要はありません。
これまでの経験から失敗を避けようとしたり、周囲との関係を保とうとしたりする中で身についた考え方もあるからです。
ただ、いつも似た方向へ考えが進み、それによって自分が疲れているのであれば、どんな場面でどのような考えが浮かびやすいのかを知ることには意味があります。
自分を厳しく採点する、他人と比べる、ひとつの出来事を何度も考えるといった思考のパターンについては、心がすり減る人の思考パターンとは?疲れやすさから抜ける3つのヒントでも詳しく取り上げています。
「思考のクセ」を悪者にしない
自分には考え方のクセがあると分かると、今度はそれを直したくなるかもしれません。
しかし、ここで少し注意したいことがあります。
たとえば、失敗することを極端に恐れる人がいたとしても、最初からその考え方が間違っているとは限りません。
過去に失敗して強く叱られた経験があるのかもしれませんし、人に迷惑をかけないよう、長い間慎重に行動してきたのかもしれません。
今では自分を苦しくさせている考え方であっても、かつては自分を守るために役立っていた可能性があります。
それを単純に「悪い思考だから直そう」と扱ってしまうと、今度はうまく考え方を変えられない自分を責めることにもなりかねません。
考え方を修正するより前に、まず自分がどんな受け取り方をしやすいのかを知る。
そこから始めた方が、自分の状態を落ち着いて眺めやすくなります。
事実と解釈を分けると、何が変わるのか
仕事で作った資料について、上司から修正を求められたとします。
「資料のこの部分を直してほしい」と言われたことと、「自分は評価されていない」と感じることは、本来別のものです。
ところが気持ちが大きく動いているときには、この二つが簡単につながります。
すると、資料の修正という具体的な問題だけではなく、自分の能力や人間関係まで否定されたように感じることがあります。
そこで一度、起きたことと自分がそこから考えたことを分けてみます。
修正を求められたことは変わりません。
しかし、自分は修正を求められると「評価されていない」と感じやすいのかもしれない、と気づく余地が生まれます。
この段階では、考え方を変える必要はありません。
自分の頭の中で何が起きたのかが少し見えるだけでも、出来事と自分自身を必要以上に結びつけずに済むことがあります。
考えごとは頭の中だけで起きているのか
ここから少し、身体へ目を向けてみます。
難しい仕事をしていたら、いつの間にか肩をすくめるような姿勢になっていた。
嫌な出来事を思い返しているうちに、奥歯を噛みしめていた。
パソコンの画面へ集中していたら、呼吸が小さくなっていた。
整体の仕事をしていると、こうした「本人が気づいていなかった身体の力み」に出会うことがあります。
考えているのは頭なのだから、身体は関係ないように思えるかもしれません。
しかし実際の生活では、考えること、感情が動くこと、身体が反応することを完全に切り離すことはできません。
考えごとが続いているときに身体まで疲れやすくなる背景については、考えすぎる人ほど疲れやすい?頭と身体が休まらなくなる理由で詳しく取り上げています。
今回の記事では、身体の反応を「治すべきもの」として見るのではなく、自分が何を考えているのかに気づく手がかりとして考えてみます。
身体から思考に気づくこともある
思考はとても速く流れていきます。
何を考えていたのか自分ではよく分からないのに、なぜか落ち着かない。そんなこともあります。
一方、身体の変化は比較的分かりやすいことがあります。
仕事中に肩が上がっていることへ気づいたとき、すぐに力を抜こうとするのではなく、その直前まで何を考えていたのか振り返ってみる。
すると、仕事を絶対に失敗したくないと考えていたことや、時間に間に合うか焦っていたこと、周囲からどう見られるかを気にしていたことに気づく場合があります。
身体を観察したことが、逆に頭の中で起きていたことを知る入口になるわけです。
身体の感覚に気づくことについては、身体の声を聴く方法|違和感に早く気づくための身体感覚の育て方でも詳しく紹介しています。
ここでも重要なのは、肩に力が入ったら悪い、呼吸が浅くなったら悪い、と採点しないことです。
身体に現れた変化も含めて、「今の自分は少し緊張しているようだ」と状態を知る材料にしていきます。
認知行動療法は「ポジティブ思考」の練習ではない
認知行動療法について、「ネガティブな考えをポジティブな考えへ変えるもの」という印象を持っている方もいるかもしれません。
しかし、何でも前向きに考えればよいという話ではありません。
仕事で明らかな失敗をしたのであれば、その事実まで「問題ない」と考える必要はないでしょう。
大切なのは、実際に起きた問題以上に自分を追い込むような解釈を付け加えていないかを見ることです。
仕事で失敗したという事実から、自分は何をやってもダメな人間だという結論まで一気に進んでいるのであれば、その間にはかなり大きな飛躍があります。
失敗した事実は受け止めながらも、次に確認すべきことを考える余地は残されています。
現実を都合よく変えるのではなく、出来事と自分の解釈を整理しながら、ほかの見方ができるかを考える。
認知行動療法を理解するときには、この違いを知っておくことが大切です。
考え方を変えることまで「課題」にしない
自分の思考に気づけるようになると、別の落とし穴も出てきます。
自分の考えを常に監視し、少しでも否定的なことを考えたら修正しようとしてしまうことです。
これでは、思考のクセから自由になるどころか、「正しく考えなければならない」という新しいルールが増えてしまいます。
毎回うまく考え直す必要はありません。
自分はこういう場面で不安になりやすい。失敗すると自分全体を否定したような気分になりやすい。
そこまで分かったら、その日はそれで終わっても構いません。
思考を完全に管理することよりも、自分が考えていることを少し離れたところから眺められることの方が大切です。
整体と認知行動療法の接点はどこにあるのか
整体と認知行動療法は、もちろん同じものではありません。
認知行動療法は心理療法であり、整体施術を認知行動療法として行うことはできません。
みどり整体院でも、認知行動療法を整体の施術として提供しているわけではありません。
それでも今回、整体院のブログでこのテーマを取り上げたのには理由があります。
施術中、自分では力を抜いていたつもりなのに、実際には肩や腕へかなり力が入っていたことに気づく方がいます。
呼吸についても同じです。
普段は意識していなかったものが、身体へ注意を向けたことで初めて分かることがあります。
思考についても、自分が何を考えているのかは案外見えていません。
身体でも思考でも、自分の状態に気づくという点には共通するところがあります。
心と身体の相互関係については、心と身体はつながっている?整体師が考えるバランスを整えるセルフケアで詳しく扱っています。
ここでは心と身体の関係そのものを広く説明するのではなく、身体への気づきを、自分の思考を知るためのひとつの入口として考えています。
日常で試すなら、分析しすぎない
認知行動療法の考え方を日常へ取り入れるために、毎回ノートを広げて自分を細かく分析する必要はありません。
気持ちが大きく動いたときに、次の四つを簡単に確認してみます。
・実際に何が起きたのか
・自分はそこから何を考えたのか
・どのような感情や行動につながったのか
・身体にはどのような変化があったのか
たとえば仕事で修正を求められた場合、「資料の一部を直してほしいと言われた」のが確認できる出来事です。
そこから「自分は評価されていない」と考え、落ち込んだり、肩や顎に力が入ったりすることもあります。
ここで正しい答えを出したり、考えを無理に変えたりする必要はありません。
普段はひとまとまりになっている出来事、考え、感情、行動、身体の反応を少し分けて見ることが目的です。
自分を細かく監視するのではなく、「今、自分の中で何が起きているのだろう」と確認する。そのくらいの使い方から始めてみてください。
おわりに
私たちは毎日、さまざまな出来事に意味をつけながら生活しています。
その意味づけはあまりにも自然に行われるため、自分の解釈を事実そのものだと思っていることも珍しくありません。
認知行動療法の考え方を知ると、その二つの間にほんの少し隙間を作ることができます。
出来事は変えられなくても、自分がそれをどう受け取ったのかは振り返ることができます。
そして頭の中だけでは分かりにくいとき、肩の力や呼吸、姿勢など、身体に現れている変化が手がかりになることもあります。
無理に前向きになる必要も、自分の思考をすべて修正する必要もありません。
まずは、自分が今どんなふうに出来事を受け取っているのかを知る。
身体についても思考についても、「直す」ことを急ぐ前に「気づく」という段階があります。
みどり整体院でも、身体を一方的に変えることだけではなく、ご自身が現在の身体の状態へ気づくことを大切にしています。
自分の思考や身体に振り回されているように感じたときには、何が起きたのか、そして自分はそれをどう受け取ったのか。その二つを少し分けて眺めてみてはいかがでしょうか。
※本記事は、認知行動療法および心身の状態について一般的な情報を紹介するものであり、診断や治療を目的としたものではありません。強い不安や気分の落ち込みなどが続き、日常生活に支障がある場合は、医療機関などの専門機関へご相談ください。
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