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痛みを知ること(PNE)とは?痛みの仕組みと、身体を動かすときの考え方

執筆者の写真: タナカユウジ
タナカユウジ
1 日前
読了時間: 10分



痛みが続くと、「まだ身体のどこかが壊れているのではないか」「動いたら、さらに悪くなるのではないか」と不安になることがあります。

検査で大きな異常が見つからないのに痛みがあると、「気のせいなのだろうか」と自分を疑ってしまう方もいるかもしれません。


しかし、検査画像に大きな変化がないことと、痛みが存在しないことは同じではありません。

痛みは、その人が感じている現実の体験です。一方で、痛みの強さが、そのまま組織の傷みの大きさを示すとも限りません。


この記事では、痛みを知るための考え方として、PNE(Pain Neuroscience Education:痛みの神経科学教育)を取り上げます。

PNEは、痛みを我慢する方法でも、「考え方を変えれば痛みがなくなる」という教えでもありません。

痛みがどのように生まれ、身体の動きや生活とどう関係するのかを学び、必要以上の不安を減らしながら、自分に合う対応を考えるための知識です。



痛みは、身体の損傷だけで決まるわけではない


痛みを理解するうえで、まず知っておきたいのが「侵害受容(身体への危険を知らせる神経の働き)」と「痛み」は同じではないということです。

熱さや圧迫、炎症などを感知する神経の活動は、身体を守るための重要な情報です。

ただし、その情報がどの程度の痛みとして経験されるかには、注意の向き方、過去の経験、睡眠、疲労、気持ちの緊張、周囲の状況なども関わります。


国際疼痛学会(IASP)は、痛みを感覚的な側面と感情的な側面を含む個人的な体験として説明しています。

痛みは、身体の組織だけを測れば完全に分かるものではなく、痛みを訴える人の体験は尊重されるべきだとされています。


たとえば、同じ程度の刺激でも、初めて経験する場合と、以前に強い痛みを経験したあとでは、身構え方が変わることがあります。

睡眠不足や疲労が重なっていると、普段なら気にならない刺激をつらく感じることもあります。これは「痛みは心の問題」という意味ではありません。

身体と脳が、危険をどう判断しているかを含めて痛みが生じるという意味です。


火災報知器にたとえると、痛みは身体を守るための警報に似た役割を持っています。

ただし、このたとえだけで「痛みは誤作動だ」と決めつけてはいけません。

実際の炎症や神経の問題など、確認が必要な状態が隠れていることもあります。

警報が鳴ったときに、音を消すだけでなく、何が起きているのかを確かめることが大切です。



痛みが長く続くときに、身体で起こりうること


一般に、3か月以上続く痛みは慢性痛と呼ばれます。

慢性痛では、けがや炎症が落ち着いたあとも痛みが残る場合があります。

また、痛みを避けるために動きを小さくしたり、腰や肩を固めたりすることで、別の動作に負担が移ることもあります。


神経系の反応が刺激に対して敏感になることを「感作」と呼びます。

感作は、痛みが続く人に関係する可能性が研究されていますが、痛みのある人すべてに同じ仕組みが起きていると決めつけることはできません。

身体の状態、生活環境、睡眠、気持ちの緊張、活動量など、複数の要素を一緒に考える必要があります。


痛みが続いているからといって、組織が同じ強さで壊れ続けているとは限りません。

反対に、痛みが長いから必ず安全だとも言えません。

痛みの経過や症状の変化を確認し、必要な場合は医療機関で原因を調べることが前提になります。



PNEは、痛みを否定せずに仕組みを学ぶ方法


PNEでは、痛みを生み出す神経の働き、身体を守る反応、動作や生活との関係などを、本人が理解できる言葉で説明します。

難しい用語を覚えることが目的ではなく、「痛みがあるとき、身体では何が起きている可能性があるのか」を一緒に整理することが中心です。


説明を受けることで、痛みへの恐怖が少し和らぎ、「動くことはすべて危険だ」と考えていた人が、できる範囲の活動を試しやすくなる可能性があります。

ただし、知識を得れば必ず痛みがなくなるわけではありません。

説明を聞いても不安が残ることはありますし、痛みを前向きに考えようと努力することが負担になる場合もあります。


PNEで大切なのは、本人の体験を否定しないことです。

「異常がないから気にしなくてよい」「脳が作った痛みだから無視すればよい」と言われれば、かえって孤立したように感じるかもしれません。

痛みが本当にあることを確認したうえで、どのような場面で強くなるのか、何をすると不安が増すのかを整理していきます。



研究で分かっていること、可能性が示されていること


PNEについては、慢性腰痛や慢性の筋骨格系の痛みを対象とした研究があります。

システマティックレビュー(一定の基準で複数の研究を集めて評価する方法)をさらにまとめた2023年のレビューでは、PNEを運動や理学療法などに加えた場合、痛みや身体機能、痛みに関する心理的な指標に、短期的な変化が示された研究がありました。


一方で、PNEだけを単独で行った場合の結果は一貫していません。

研究ごとに、説明の内容、回数、対象者、比較した方法が異なり、根拠の確かさが低いものも含まれていました。

レビューの著者も、研究の質や方法のばらつきが大きく、結論を強く断定できないとしています。


2025年に発表された慢性腰痛のシステマティックレビューとメタ解析(複数の研究結果を統計的にまとめる方法)では、PNEを含む介入を受けた人で、痛み、身体機能の制限、動くことへの恐怖、痛みを悪い方向に考え続ける傾向などが、介入後や短期の追跡時点で少なくなったという結果が報告されました。

ただし、15件のランダム化比較試験の内容は一様ではなく、運動や理学療法と組み合わせた研究も含まれます。

研究の偏りが残るため、「PNEの説明だけで腰痛がなくなる」と読み替えることはできません。


ここまでから、次のように分けて考えると整理しやすくなります。


研究で比較的分かっているのは、PNEを運動や理学療法などと組み合わせることで、短い期間の痛みや身体機能、痛みに伴う不安や恐怖に変化が報告されていることです。


可能性が示されているのは、痛みの仕組みを理解することで、動作への過度な警戒が和らぎ、本人に合った活動を試すきっかけになることです。


まだ断定できないのは、PNE単独での長期的な効果、説明を受ければ誰にでも同じ変化が起こるかどうか、特定の比喩や説明方法がすべての人に適するかどうかです。

痛みの仕組みを知ることは大切ですが、それだけで個別の原因や経過を説明できるわけではありません。


2026年の質的システマティックレビュー(本人や支援者の受け止め方をまとめる研究)では、PNEを受け入れやすくする要素として、分かりやすい言葉、本人の生活との結びつき、説明する側との信頼関係などが整理されています。

これは痛みが少なくなることを直接証明した研究ではありませんが、知識を一方的に渡すのではなく、本人の疑問や経験に合わせて対話する必要性を示しています。



痛みがあると動くのが怖くなるのは、自然な反応でもある


痛みを経験したあとに、同じ動作を避けたくなるのは不思議なことではありません。

動くことへの強い恐怖は、研究ではキネシオフォビア(運動恐怖)と呼ばれます。

これは意志が弱いから起こるものではなく、身体を守ろうとする反応の一つとして現れることがあります。


ただし、避ける動作が増えすぎると、身体を動かす機会が減り、さらに「動くと危険だ」という予測が強くなることがあります。

脳の予測と身体の緊張については、「なぜ身体は勝手に緊張するのか?脳の『予測』が身体を動かしている」でも紹介しています。

痛みをその記事の内容だけで説明することはできませんが、先回りして身構える仕組みを考える手がかりになります。


ここで大切なのは、痛みを無視して急に動くことではありません。

まずは、寝返り、立ち上がり、短い歩行など、本人が必要だと感じる動作を一つ選びます。動作中の痛みだけで判断せず、終わったあとや翌日にどう反応したかも確認し、量や速さを調整します。



日常で「痛みを知る」ためにできること


セルフケアとして最初にできるのは、痛みを常に監視することではなく、短い時間だけ身体の反応を観察することです。

椅子に座った状態で足裏や背中がどこに触れているかを感じ、肩や顎に力が入りすぎていないかを確かめます。

呼吸は無理に深くせず、息を止めずに楽に続けられる範囲で十分です。


次に、「何をすると痛みが強くなるか」だけでなく、「どの姿勢なら少し動きやすいか」「休憩を入れるとどう変わるか」も見てみます。

痛みを細かく採点し続けるより、買い物に行く、家の中を歩く、仕事で座る時間を区切るなど、生活の目標と身体の反応を一緒に確認するほうが役立つ場合があります。


運動を新しく始める余裕がないときは、「忙しくて運動できない方へ|日常動作で身体を整える続けやすい習慣」で紹介しているように、立つ、座る、歩くといった日常動作の使い方を見直すところから始めても構いません。大きな課題を一度に増やすより、数分の動作を生活に置き、翌日の反応を見ながら続け方を考えます。


身体の小さな変化に気づく方法は、「身体の声を聴く方法|違和感に早く気づくための身体感覚の育て方」でも扱っています。

ただし、違和感を探し続けると不安が強くなることがあります。

確認する時間を決め、気づいたことを生活の調整に生かしたら、いったん別の活動へ戻ることも大切です。



セルフケアより先に医療機関へ相談したい場合


突然の強い痛み、短時間で悪化する痛み、発熱や強いだるさを伴う痛み、重大な転倒や事故のあとに出た痛みは、セルフケアを試す前に医療機関へ相談してください。

体重減少、夜間に強くなる痛み、数週間たっても変化がない痛み、日常生活を大きく妨げる痛みについても、自己判断で長く抱え込まないことが大切です。


両脚のしびれや力の入りにくさ、股の間の感覚が鈍い、尿が出にくい・漏れる、便をコントロールしにくいといった変化がある場合は、緊急の相談が必要です。胸の痛みや強い息苦しさを伴う場合も、腰や筋肉の問題と決めつけず、救急を含む適切な窓口へ相談してください。


痛みを知ることは、我慢するためではなく、選択肢を増やすため


PNEは、痛みを「気のせい」にする考え方ではありません。

痛みがあることを前提に、身体の危険を知らせる仕組み、生活や経験の影響、動作への不安などを整理し、自分に合う対応を考えるための学びです。


研究では、PNEを運動や理学療法などと組み合わせた場合に、短期的な変化が報告されています。

一方で、PNE単独の効果や長期的な結果には不確実な部分が残っています。

痛みの説明を聞いたあとに、すぐ前向きになれなくても問題ありません。

疑問を言葉にし、必要な検査や相談を受けながら、できる動作を小さく確かめていくことが大切です。


痛みを知ることは、無理に我慢するためではなく、怖さだけで行動を決めないための材料になります。

身体の反応を尊重しながら、日常でできる一歩を探していきましょう。




※この記事は一般的な情報提供を目的としており、病気の診断や治療、個別の運動処方に代わるものではありません。


参考研究・資料


International Association for the Study of Pain. Terminology: Pain.


Cuenca-Martínez F, et al. Pain neuroscience education in patients with chronic musculoskeletal pain: an umbrella review. Front Neurosci. 2023;17:1272068.


Medina-Viedma L, et al. Effectiveness of Pain Neuroscience Education in Reducing Pain, Disability, Kinesiophobia, and Catastrophizing in Patients with Chronic Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Med Sci (Basel). 2025;13(4):290.


Kühn L, Wengemuth E, Kleist L, Choi KEA. Acceptance of pain neuroscience education in chronic musculoskeletal pain conditions: qualitative systematic review. Pain Rep. 2026;11(2):e1420.


NHS. Back pain.



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