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医療と整体の歴史シリーズ 第2回:古代文明に息づく“手当て”の知恵 〜エジプト・インド・ギリシャの身体観〜

執筆者の写真: タナカユウジ
タナカユウジ
2025年7月31日
読了時間: 5分

更新日:10月20日

※動画は記事公開当時の内容です。現在の内容に合わせ、本文は一部更新しています。

古代文明では、病をどう捉えていたのか


前回の「医療と整体の歴史シリーズ 第1回:癒しの原点をさかのぼる〜祈りと呪術から始まった医療〜」では、祈りや儀式、観察など、古代の人々が病に向き合ったさまざまな方法を見ました。


今回はエジプト、インド、ギリシャ、そして日本に目を向けます。

それぞれの土地で、人々は身体をどう理解し、苦しむ人にどう対応していたのでしょうか。


同じ「古代医療」と呼んでも、考え方も方法も一つではありません。

その違いをたどりながら、現在の整体について考える手がかりを探してみます。


エジプト:神と身体がつながる世界


古代エジプトには、病やけがへの対処を記したパピルスが残っています。

そこには材料を用いる処方や傷の観察とともに、唱える言葉も記されていました。


紀元前1550年ごろに書き写された「エーベルス・パピルス」には、多くの処方が収められています。

古代エジプトの人々にとって、祈りと身体への具体的な対処は、必ずしも別々のものではなかったのでしょう。


また、「エドウィン・スミス・パピルス」には、けがの状態を調べ、対応を判断する記述があります。

目の前の状態を観察する姿勢も、古代の記録から読み取れます。


ただし、こうした記録にある方法を、現在の「内臓調整」や温罨法と同じものとして説明することはできません。

古代の人々が何を見て、どう対処しようとしたのか。

その時代の言葉として読むことが大切です。


インド:調和を重んじるアーユルヴェーダの哲学


インドで発展したアーユルヴェーダは、食事や生活習慣、身体の状態などに目を向ける伝統的な医療体系です。

「ドーシャ」は、その中で身体の状態を説明するために用いられる概念です。


現在のアーユルヴェーダには、油を使って身体に触れるアヴィヤンガや、額に液体を垂らすシロダーラなど、さまざまな方法があります。

ただし、現在知られている個々の方法が、紀元前1000年ごろから同じ形で行われていたとは言い切れません。


また、「神経を鎮静する」「身体を浄化する」といった説明は、効果が確かめられた事実としてではなく、その療法が何を目指しているかという伝統的な考え方として区別する必要があります。


ここで注目したいのは、身体の一部分だけでなく、食事や暮らしにも目を向けていたことです。

現在の医学や整体と同じ理論ではありませんが、「その人の生活も含めて考える」という問いを投げかけてくれます。


ギリシャ:観察と理論から生まれた「バランス医学」


古代ギリシャでは、病を神々の働きだけで説明せず、身体の状態や暮らし、周囲の環境から考えようとする医学も発展しました。


ヒポクラテスに結びつけられる医学の文献には、患者の状態や病の経過を観察する姿勢が見られます。

一方、血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁の均衡で健康を説明する四体液説も、古代ギリシャ医学で重視されました。


四体液説は、現在の医学で身体の仕組みを説明する理論ではありません。

それでも、当時の人々が観察したことを整理し、病の理由を考えようとした点は、医学の歴史を知るうえで興味深いところです。


古代ギリシャにも祈りや信仰はありました。観察が始まった途端に、それまでの考え方がすべて消えたわけではないのです。


日本ではどうだったか?


日本列島の古代についても、当時の人々が病にどう対応していたかを、詳しくたどれる記録は限られています。


『魏志倭人伝』には、卑弥呼が「鬼道」に関わったという記述があります。

ただし、そこに「病にはまじないを用いる」と書かれているわけではありません。

信仰に関する記述を、そのまま医療の方法として紹介することは避けたいところです。


その後、日本には大陸から医薬や身体についての知識が伝わり、時代とともに受け入れられていきました。


痛むところに手を添える行為は、今の私たちにも身近です。

ただ、その身近さだけを根拠に、古代の行為と現代の整体が同じ技術として続いているとは言えません。


「観察」と「祈り」の間にある整体的まなざし


エジプト、インド、ギリシャ、日本。それぞれの歴史には、病を説明する考え方も、身体への向き合い方も異なる形で残されています。


その中には、症状を観察すること、暮らしを見ること、祈ること、身体に触れることがありました。

すべての文明に共通する一つの「整体的な発想」があった、とまとめるより、それぞれの違いを見ておきたいと思います。


現在の日本の整体は、古代医療の再現でも、病気を診断・治療する医療でもありません。では、整体院では何を大切にできるのか。

目の前の人の話を聞き、身体の使い方や日々の負担に目を向けることは、その一つだと考えています。


現在の整体と医療の役割については、「整体は医療じゃない?違いと役割をわかりやすく解説」で整理しています。



※本記事は歴史的・文化的視点から整体の背景を考察するものであり、医療行為を示すものではありません。

※記載されている療法は、その効果を保証するものではなく、あくまで文化的事例として紹介しています。


参考資料


University College London, Digital Egypt for Universities「Healing papyri」


Leipzig University Library「Ebers Papyrus」


U.S. National Library of Medicine「Ancient Greek Medicine」


National Center for Complementary and Integrative Health「Ayurvedic Medicine: In Depth」


『三國志』魏書三十・倭人伝(中國哲學書電子化計劃)




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