中国の治療文化から学んだこと|整体師が見た中医学と日本との違い

更新日:9月15日

整体師として働いていると、「海外ではどのような治療が行われているのですか?」と聞かれることがあります。
私自身、数年前に中国・吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉市を訪れ、現地の治療院や中医病院を見学する機会がありました。
当時は勤めていた整体院で院長を務める傍ら、整体学校でも講師をしており、中国の治療院グループとの交流事業に参加することになったのがきっかけです。
最初は「海外の治療を見てみたい」という軽い気持ちでした。
しかし帰国して振り返ると、その旅は整体師としての考え方に少なからず影響を与えてくれた経験になりました。
今回は、中国で実際に見た治療文化や、日本との違い、そして私自身が感じたことをお話ししたいと思います。
中国という異文化の中で感じた身体との向き合い方が、今のみどり整体院にもつながっています。
中国・延吉という街で感じた文化の違い
最初に訪れた延吉市は、中国東北部にある吉林省延辺朝鮮族自治州の中心都市です。
街には中国語だけでなくハングルの看板も数多く並び、日本ではなかなか見られない景色が広がっていました。
晴れた日には遠くに北朝鮮が見えることもあると聞き、日本とはまったく異なる空気を感じたのを覚えています。
現地では提携先の皆さんが本当に温かく迎えてくださり、毎日のように食事へ連れて行っていただきました。
高級レストランで本場の料理をごちそうになりましたが、慣れない味付けに戸惑うことも少なくありませんでした。
特に有名な「延吉冷麺」は現地では名物料理として親しまれていますが、もともと冷麺があまり得意ではない私は、その魅力を十分に味わうことができませんでした。
逆に印象に残っているのはコーヒーです。
ホテルにもコーヒーはありましたが、日本で普段飲んでいるものとはかなり違い、現地スタッフに案内してもらったスターバックスで久しぶりに飲んだ一杯には思わずほっとしました。
こうした経験を通して感じたのは、「食文化の違いは身体が最初に感じる」ということです。
頭では理解していても、身体は正直です。
文化が違えば、身体が安心するものや落ち着くものも少しずつ変わっていくのだと実感しました。
延吉の治療院で感じた「結果を求める文化」
今回の訪問で最も印象に残ったのは、中国の治療院を見学したときのことです。
ある治療院では、ぎっくり腰で来院した方に対して、その場で鍼治療と矯正を組み合わせた施術が行われていました。
施術を受ける方も、その場で改善することを当然のように期待しています。
案内してくださった先生からは、「中国では結果が出るまで帰らないという考え方の人も少なくありません」と教えていただきました。
施術者にも、その場で結果を出すことへの大きな責任が求められます。
治療室には独特の緊張感があり、日本の整体院とは少し違う空気が流れていました。
もちろん、日本と中国では医療制度や文化、考え方が異なります。
どちらが正しいという話ではありません。
ただ、「結果を求める文化」が根付いていることは、日本との大きな違いだと感じました。
中医学と西洋医学、そして整体
案内してくださった院長先生は、中医大学を卒業された後、ドイツでシュロス法(Schroth Method)も学ばれた先生でした。
中医学という東洋医学の考え方を土台に持ちながら、西洋医学の解剖学や評価法も積極的に取り入れており、その柔軟な姿勢に強く惹かれました。
以前、私はフランスで理学療法(Kinésithérapie)やオステオパシーの現場を見学した経験があります。
そのとき感じた空気と、中国で見た治療の現場には、どこか共通するものがありました。
医学の考え方は違っていても、相手の身体を理解しようとする姿勢には共通点があります。
身体は国境を知りません。
だからこそ、さまざまな考え方を知ることは、整体師として大きな学びになると感じました。
中医病院で見た、日本とは違う治療文化
滞在中には、大規模な中医病院も見学させていただきました。
病院内は、「鍼」「灸」「漢方」「手技」などの分野ごとにフロアが分かれており、多くの患者さんが治療を受けていました。
鍼治療のフロアでは、顔や身体に鍼を刺したままベッドで休んでいる方が何人も並んでいます。
灸のフロアへ入ると、煙が立ちこめ、建物全体が独特の香りに包まれていました。
さらに手技療法のフロアでは、多くの施術者が同時に患者さんへ施術を行っています。
その光景は、日本ではほとんど見たことがない規模でした。「治療」が日常生活の中へ深く根付いている文化なのだと感じた瞬間でもあります。
日本では病院、整骨院、整体院などの役割が分かれていますが、少なくとも今回訪れた延吉では、中医学が身近なものとして生活と結びついているように感じました。
満州国時代につながる中医の先生との出会い
今回の旅で、特に忘れられない出会いがあります。
現地の方々が「大先生」と呼んでいた高齢の中医の先生と食事をご一緒する機会がありました。
その先生は、満州国時代に皇帝・溥儀へ仕えていた中医の流れを受け継ぐ方のお弟子さんにあたるそうです。
食事の席で、日本から同行した同僚がこんな話をしました。
「東洋医学と西洋医学、それぞれの良い部分がもっと融合できたら素晴らしいですね。」
すると大先生は少し考えたあと、静かにこう答えました。
「それは無理だ。」
理由を伺うと、
「東洋医学と西洋医学は、根本となる考え方そのものが違う。」
というものでした。
当時の私は東洋医学についてまだ詳しくありませんでしたが、その言葉には長年積み重ねてきた経験と強い信念が感じられました。
別れ際に握手をしていただいたときの、驚くほど温かい手の感触は今でも忘れられません。
街の活気と働き方の違い
延吉の街を歩いていて印象的だったのは、若い世代の多さと街全体の活気でした。
案内してくださった現地スタッフも非常にエネルギッシュで、「若いうちに一生懸命働き、早めにリタイアを目指す」という価値観があると教えてくれました。
実際に街全体から勢いのようなものを感じ、日本とは働き方や人生設計に対する考え方も違うことが伝わってきました。
また、漢方が特別なものではなく、生活の一部として自然に取り入れられていることも印象に残っています。
身体を整えるという考え方そのものが、日常生活へ溶け込んでいるように感じました。
一方で困ったこともありました。
英語がほとんど通じなかったのです。
私の英語力は決して高くありませんが、それでもフランスでは何とか意思疎通ができていました。
しかし延吉では中国語とハングルが中心で、アルファベットを見る機会がほとんどありませんでした。
その環境は新鮮である一方、言葉が分からないだけで世界の見え方は大きく変わるものだと実感しました。
中国で学んだことは、今の整体にもつながっている
視察の途中では、私自身が簡単な施術のデモンストレーションを行う機会もありました。
身体へ軽く触れながら整える日本式の整体に興味を持っていただき、「中国で一緒に働かないか」と声をかけていただいたこともあります。
また、現地では「日本式」という言葉自体が信頼につながる場面もあり、日本人であることへの期待を感じる出来事もありました。
約10日間の滞在でしたが、振り返ると観光旅行では得られない多くの学びがありました。
その場で結果を求める文化。
中医学という長い歴史。
先生方が持つ強い信念。
異なる言語や食文化。
その一つひとつが、整体師として身体を見る視点を広げてくれたように思います。
私は現在、中野区でみどり整体院を営んでいます。
中国で見た治療をそのまま取り入れているわけではありません。
しかし、「文化が違えば身体との向き合い方も変わる」という経験は、今でも施術を考える上で大切な財産になっています。
海外には、それぞれの土地で育まれてきた身体観があります。
その違いを知ることは、自分自身の考え方を見つめ直すきっかけにもなります。
皆さんも旅行や留学、仕事などで海外へ行く機会があれば、その土地の「身体との向き合い方」に少し目を向けてみると、新しい発見があるかもしれません。
※この記事は筆者が中国・延吉市を訪問した当時の体験をもとに執筆しています。医療制度や治療内容、社会情勢などは現在と異なる場合があります。
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